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This Archive : 2010年07月

2010.07.27 *Tue

彼が僕を訪ねてくる日 8

 秋本はそれ以降も、全く変わらずに僕のところへ通い続けた。彼の態度があまりにそれまでのままで、あれは夢だったのではないかと思えてくる。けれどそのたび、着信の増えた彼の携帯がそれを否定した。

 幸と不幸が一体となった彼との時間が、僕を苛んだ。ときどき感じる姉さんの心配げな視線も、相変わらず僕の機嫌ばかり取ろうとする母の態度も、余計に気に障った。
 たかが失恋だろう、と思おうとしても、僕の日常に組み込まれた秋本の存在がそれを許さなかった。

 一ヶ月ほどそれが続いた。けれど僕自身、もう限界だとわかっていた。そもそも僕が一方的に与えられるばかりのこの関係が、正しくなかったのだ。
 僕は秋本から卒業しよう、と決意した。



 久しぶりに秋本が昼間から来る、土曜日だった。彼の丁寧なおじゃまします、を聞いて、これも最後になるのかな、と感傷に浸る。このひと月で、最も穏やかな気持ちで彼を迎え入れていた。
 いつも通りゲームをして、漫画を読んで、ときどきしゃべって、そうしているとこのままでもいいのではないかと思ってしまいそうになる。彼との時間が惜しい。
 僕はギリギリまでその時を引き延ばした。彼の帰らなければならない時間の三十分ほど前、秋本が読んでいた漫画を置いたときに、僕はついに切り出した。

「あのさ。話が、あるんだけど」

 うん? と応える声に、言葉が詰まる。彼の顔を見ることができない。一度息を深く吸って、吐き出す空気に言葉を乗せた。

「僕、高校、退学した」
「……え?」

 一言伝えてしまえば、あとはまくしたてるように言葉が続いた。

「いつまでもこのままってわけにはいかないし。だけど、またあの学校に通うなんて無理だと思って。一応独学で勉強は進めて来てたし、だから、高認試験受けることにした」
「は? な、え? なんで急に……」

 湯船に浸かったような心地よさから、僕はふやけきる前に脱さなければならない。もう、手遅れかもしれないけれど。

 頭の中がひどくクリアだった。けれど外との狭間に何かが沈殿している。

「急じゃないよ。ずっと考えていたんだ。僕には何か、区切りが必要だって。秋本が持ってきてくれるプリントで一応進級はできてたけど、それじゃ甘えすぎだし、僕自身がだめになると思ったんだ」
「でも……なら、なんで相談とかしてくれなかったんだ?」

 --できるわけがないよ。
 僕は秋本から逃げるためにそうするのだから。卒業だとか区切りだとかそれらしいことを言ってはいるけれど、結局僕が耐えられなくなっただけだ。

「反対されると思ったから。それに、これは僕自身の問題で、秋本には関係ないし」

 事前に考えておいた理由を述べる。関係ないって何だよそれ、と呆然とする彼に、本当はそんなこと思っていないと伝えたい。
 けれど、彼から離れるには、彼からの歩み寄りも断つ必要があった。

「それで……秋本も、っ、彼女、できたんだしさ、僕の家になんか来てないで、デートでもしなよ。僕はもう、大丈夫だからさ」

 笑顔を上手く作れているか、不安だった。けれどたとえそれが歪なものだったとしても、僕の話に動揺してくれている彼なら気付きはしないだろう。

「俺、迷惑だった?」

 俯き床を睨む彼から、ぼそりと言葉が落とされた。

「違う! 全然、迷惑なんかじゃないよ。秋本には本当に感謝してる」

 でも、と続けようとしたところで、遮られた。彼は顔を上げない。そんな彼の横顔を、僕は見つめる。

「いいよ、わかった。今年は俺らも受験生だしな」

 傷つけたかもしれない、と思うと、そこに屈折した喜びが生まれた。彼の中に在る自分の存在の大きさが嬉しかった。だけど所詮、僕は友達でしかない。
 不意に顔を上げて、秋本がこちらを振り向いた。真直ぐな眼差しで僕の目を刺す。隠してきたこの恋情を見抜かれてしまいそうで、なのに目を逸らすことができなかった。

「でもたまには、来てもいいだろ?」

 肯定してしまいたい衝動に駆られた。彼との繋がりを断ちたくない。細くてもかまわないから、どんなに些細なものでもかまわないから。彼のこれからの人生のどこかに、僕も存在していたい。
 けれど僕は、彼から目を、逸らした。

「しばらく、は……、僕もいろいろ、ごたごたすると思うから。……来ないで、ほしい」

 彼も目を落とす。二人の間に、影が差す。

 もしかしたら、もう二度と僕と彼の人生が交錯することはないかもしれない。そう思うと心が軋んだ。

 --僕がこの恋を、完全に終わらせることができたなら。

 そうしたら、また飽きるほどゲームをしよう。
 胸の内でそう告げて、僕は彼との優しく残酷な時間を手放した。





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昨日、永久の蛍火を読んでわざわざ拍手までしてくださった方がいらっしゃったようです。
ありがとうございます! すごく嬉しいです~:*:゜・☆ヾ(TωT。)アリガト

今日は青函トンネルを抜け、木古内から携帯で更新です!
ちょっと短め? かな? そうでもない? 携帯だからよくわからないです(>_<)
文章も考えづらかったです。間合いとか、よくわからないよ~(ノ△T)
実家に着いたら改稿するかもです。

次話は、また携帯から更新するか、8月になってしまいます。

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