FC2ブログ

This Archive : 2010年09月

2010.09.05 *Sun

彼が僕を訪ねてくる日 11

亘くん byしごさん
版権はSSshigo屋のしごつつめさんにありますので、無断転載・コピーはお控えください。



  第一話から読む




 数学と国語の教科書、問題集、参考書、それから電子辞書とルーズリーフと……たくさん勉強道具を詰めたショルダーバッグを肩に掛け、玄関に立ち尽くす。
 ドクドクいう心臓が痛い。
 ドアノブに手を掛けては離し、深呼吸をする。

 かれこれもう一時間くらいこの状態だった。
 外に出るのなんて、正月に祖父母の家へ行った時以来だ。それにそのときは家族もいたから、自分一人で出かけるのは一年振り以上かもしれない。

 甘やかされていたんだな、と今更ながら気付く。今まではきっと、気付こうともしなかったのだろう。
 そんな自分を変えるために、僕は一歩踏み出そうと決めたんだ。


『一人で行ける? って、これじゃ私も過保護だな……』

『うん。一人で大丈夫』

『ありがとう、姉さん』


 そんな会話を思い出し、小さく笑う。きっと、大丈夫。

 ふう、と息を吐いて、両手でノブを握りしめた。
 目を強く瞑って手首を捻ると、ガチャリ、と音が鳴る。

 ふわりと風が香る。

 ――ああ、もう、こんな季節か。

 目を開くと、五月の爽やかな色合いが視界を埋めた。
 世界から取り残されていた時間を思う。
 ひどく損をしたような、けれどそれも自業自得なのだと後ろめたさのようなものが渦巻く。
 それでも深呼吸をして外の空気を堪能し、外に出てさえしまえば案外大丈夫なんだと胸をなでおろした。


 初日こそ外に出るのに苦戦したが、その後はそれまでの引きこもり生活が嘘のように、何の躊躇いもなく外に出られるようになった。
 休館日の月曜日を除いて、図書館へと通い詰める。





 そうしているうちに、いつの間にか梅雨を迎えようとしていた。雨の降る日が増え、この時期独特の肌寒さに時の移ろいを感じる。

「あ、おはよう!」
「おはようございます」

 図書館に通うようになって、一人、新しい知り合いができた。その人、真船修介さんが入り口で僕を見つけて、満面の笑みを浮かべて近付いてくる。僕も小さく会釈して、挨拶を返した。
 真船さんは一浪していて、一つ年上だった。解けない問題に唸っている僕に、突然話しかけてきたのが出会いだった。

『ね、君も浪人生?』
『え、っと、そういうわけじゃ、ないんですけど……』

 正直に言うとひどく煩わしかった。恐怖心さえ抱いた。他人と話すのは、今でも苦手だ。

『でもそれって受験勉強だよね? 俺、去年落ちてさあ、一浪中なんだよね。君はどこ受けるの? あ、そうだ俺、真船修介っていうの。漢字はこうね。よろしく』

 さらさらと真船修介、と書くペン先を目で追って、よくしゃべる人だと思った。にこーっと人懐こそうに笑いかけられる。その笑顔と勢いに圧倒されて、僕は何も返せなかった。

『君は?』
『え?』
『名前。何ていうの?』

 知らない人に、正直に応えていいものかと迷った。別に、小学生や女子高生ではないのだけれど。

『あ、別に俺、怪しい奴じゃないよ。うーんっと……あ、あった、ほら免許。陵高……陵南高校出身なんだけど、一人で勉強しててもつまんねーからさ。友達みんな予備校行っちゃってさあ、知り合いいないの。だからさ、仲良くしようぜ?』

 立て続けに話されて、僕は一瞬の間をおいて思わず噴き出した。馴れ馴れしいというより、かまってほしがる犬のようで、くすくすと笑いが止まらない。

『え? 何? 俺何か変だった?』
『いえ、なんか……、免許とか見せちゃって、いいのかなって思って』

 肩と声を細かく震わせてしゃべる僕に、真船さんは、ああ、と髪を掻く。照れたような笑顔に、ちくん、と胸が痛んで、僕は笑いを収めた。
 悪い人では、ないと思う。話しているうちに僕を詰まらなく思っても、僕を傷つけるような人ではないだろう。僕の勘なんて、あてにはならないけれど。
 警戒心が完全に消えたわけではなかったが、満開の笑顔に毒気を抜かれてたようだった。

『えっと、広尾亘です。よろしくお願いします』

 小さく頭を下げて、僕も笑顔を作った。







←前へ / 次へ→





いつの間にか、9月。学校も始まっちゃいました…(ノω・。)ウゥ…
またもやお久しぶりです。
やっと出てきた真船くん。名前が決まるまで2日もかかっちゃいました。
彼はどういう人だろうー?
書いていくうちに変わるので、私にもまだわかりません。


↓ランキングに参加しています。
 学校始まって逃げたがっているくっくをどうぞ叱咤激励してくださいΣ\(゚ロ゚ )オイ

にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村
19:41CM(4)TB(0)EDIT


最新記事



最新コメント



最新トラックバック



アクセスカウンター



オンラインカウンター

現在の閲覧者数:



月別アーカイブ



カテゴリ

ホーム (1)
彼が僕を訪ねてくる日 (16)
SS・短編 (6)
BL観潮楼 (11)
宝物 (7)
オフ会 (0)
雑記 (4)
リンク (1)
未分類 (1)



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



検索フォーム



ブログ村

ランキングには参加していませんが、
登録はしてあるのでバナーだけ置いておきます
にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村



QRコード

QR



Copyright © 小さな愛の芽吹き All Rights Reserved.
テンプレート配布者: サリイ  素材:Bee   ・・・