FC2ブログ

This Archive : 2010年09月

2010.09.09 *Thu

彼が僕を訪ねてくる日 12

亘くん byしごさん
版権はSSshigo屋のしごつつめさんにありますので、無断転載・コピーはお控えください。



  第一話から読む




 その、初めて会話したときのことを思い出して、うっすら笑いが漏れた。

「何ー? 思い出し笑い? 亘くんったらやーらしい」
「真船さんと会った時のこと、思い出してたんですよ。よくしゃべる人だなあって」

 笑いながら答えると、真船さんは、ひでー、と大げさに嘆く。それを見て、僕はまた笑う。まだ、何も考えずに秋本と過ごしていた、あの頃のようにはできないけれど。

 連れ立って館内へ入ると、静まった空気に背筋が自然と伸びた。この空気は嫌いじゃない。

 一人での勉強も確かに捗ったし、秋本のことを忘れていられた。けれどやっぱりそれは閉鎖的で、息の詰まるものだったことが、今ならよくわかる。

「んじゃ、今日も頑張りますか!」
「はい」

 小声で囁く真船さんに、小さく微笑み、頷き返す。
 無理やりにではなく笑えるようになった自分に、僕はほっとしている。

 今でもまだ戸惑いはあったけれど、知らない土地で、全く新しく出会った人と交わす会話は僕の心を癒した。自分の心を誤魔化しているだけのような苦みを伴ってはいたけれど。

 ふとした拍子に思い出すことがある。
 どこか深いところに押し込めていた想いが、不意を突いて浮かび上がる。僕の真ん中に傷が付いていて、そこからポコリと空気が溢れてくるように。
 そのたびに僕は忘れていた傷に気付き、その痛みに喘ぐ。

 けれど、思い出すことができるようになってよかった、と思う。少なくとも今は、四六時中この想いと対面しているわけではないのだから。

 ふいに耳元に何かが触れて、肩が跳ねた。慌てて顔を上げると、真船さんの手がこちらに伸びていた。

「ああ、ごめん。髪にゴミついてたから」
「あ、ありがとうございます」

 温かい指先が、僕の心を切なくする。ほんの少しの触れ合いにすら、秋本を重ねそうになる自分が嫌いだった。

「亘、」

 真船さんの声に、顔を上げた。
 亘、という呼び方に、ポコリ、ポコリ、とまた秋本への想いが、そしてそれに伴う感情が胸に満ちる。
 不安定な自分を持て余す。一定して沈んでいるのとどちらがいいのだろうか。

「あのさ、明日気分転換行かない?」
「気分転換?」
「うん」

 真船さんは、不毛な思考に沈む僕を掬い上げてくれる。彼の笑顔は心地良かった。

「ずっと勉強しててもさ、気が滅入るじゃん。なんかさ、ゲーセン行ってパーっと遊んでもいいし、カラオケとか行ってもいいし、映画観るんでもいいし。ね、どう?」
「う、ん……。でも、勉強しなきゃですし……」

 外を出歩くのにはまだ抵抗があった。
 人の多いところは苦手だ。それに、このあたりに住む人が遊ぶときにどこに行くのかは知らないけれど、少なくとも映画館はなかったはずだ。そうなったらきっと、僕の住んでいる市にくることになるだろう。

「そうだけど、一日くらいならさ。実はさ、これ自分で言うのもどうかと思うけど、明日俺、誕生日なんだ。誕生日くらい、勉強忘れて遊びたいじゃん。だからさー、お願い!」
「そうなんですか? おめでとうございます。十九歳になるんですよね?」
「うんそう、十九歳。じゃなくって、明日! なあ、いいだろー?」

 真船さんはきっと引かないだろう。少し強引なところがあるから、そのおかげで僕もこうして親しくなれたのだけれど。

 他の人を誘えば……と一瞬考えたが、明日も平日だから、きっと予備校に行っている子はその日も忙しいのだろう。

「うぅん……、わかりました。じゃあ、どこに行きますか?」
「ほんと! ありがとうー! 亘はどこに行きたい?」
「いえ、真船さんの誕生日だし、真船さんが決めてください」

 知らず強張っていた身体から、意識して力を抜いた。

「亘はS市に住んでるんだよね? だったらS駅の改札で待ち合わせしよう。明日までにどうするか考えとくから」
「あ……、はい……」

 誰にも会わずにすむように。僕はそっと胸の内で祈る。
 同時に、これもいいリハビリになるかもしれない、と思うことで、僕は少しでも不安を消そうとしていた。














←前へ / 次へ→





亘、デートの約束しちゃった(*ノノ)キャ!

ちょっとずつ元気になってるっぽい亘に対して、くっくは未だ夏バテ気味です…。
お腹が空っぽな感覚はあるのに、食欲なくてあんまり食べられないー(>_<)

↓ランキングに参加しています。
 デート早く読みたい!って思っていただけたら、どうぞポチっと。。

にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村
スポンサーサイト
15:23CM(6)TB(0)EDIT


最新記事



最新コメント



最新トラックバック



アクセスカウンター



オンラインカウンター

現在の閲覧者数:



月別アーカイブ



カテゴリ

ホーム (1)
彼が僕を訪ねてくる日 (16)
SS・短編 (6)
BL観潮楼 (11)
宝物 (7)
オフ会 (0)
雑記 (4)
リンク (1)
未分類 (1)



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



検索フォーム



ブログ村

ランキングには参加していませんが、
登録はしてあるのでバナーだけ置いておきます
にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村



QRコード

QR



Copyright © 小さな愛の芽吹き All Rights Reserved.
テンプレート配布者: サリイ  素材:Bee   ・・・